薄曇りの中、その入り口からタイトターンのようなレフトターンがゴーグルの視界に入った。ブレーキ・レバーに掛けた指の力加減を強めに。ギャーは一つ落として3速。
コーナー進入と同時にスロットルを開けると、狙ったようにテールがスライド。
マシンが起きると同時に次にライト・ターンに向けてさらにスロットルを開ける。
ただ、開度は新車のシェイクダウンだから3割が本日のリミット。
でも、あっという間に5速。して、次のコーナーに向けてブレーキングを開始。
tmのいつもと同じ何も変わらない。愉しさは存分に味わえる。

昨年のEICMAにて本社のテストライダーに 2TFiは如何? と、たずねた。
4Tみたいにスムースでトルクがあるよ。パワーもね。と、嬉しそうに言っておりました。
また、この4月本社を訪ねた際にマネージャーに。
日本では2Tインジェクションバイクのトラブルが多いと聞くがtmは大丈夫か?
と、たずねたところ。
いかなる問題もないよ。心配しなくて大丈夫だ。と、言う返答は受けていましたが。
自身初めて2Tインジェクション(以下FI)、しかもオイル・インジェクション(以下OI)と言うこともあり、スロットルワークに不自然を感じさせないのか?レーシングtmらしくスムースに回るのか?単純に大丈夫か?と、いう思いはあったのは事実。しかし、tmを信じて試乗を開始。
そんな心配は試乗から僅か数分を待たずに消滅。それどころか彼らの言葉をマシンが証明してくれた。そう特に絶大な安心感とトルクが印象に残った。
試乗を終えて想像を超えるパフォーマンスというかトルクの大きさに感動しています。
まず、とにかく自然。Fi等、まったく分からない。従来のtmのままです。それどころかFiが故の効率の高さから今まで以上のトルクを身に着けたようです。
まさにtm is tm。
さて
林道、作業道を飛ばす程度なら20%以下のスロットル開度で自在に走りまわり、走破できる。それは今回の300に限らない。
そうtmなら125も同じだ。
しかし、同じ路面を走っても300は落ち着いたしっとりと滑らかなマナーを感じる。
しかも上質だ。
安定感、安心感はtmらしく皆変わらないように思うのだが。低速が太い分トラクションの強大さがより安定感につながっている。
体感するパワー感は250と変わらない。いや、回転上昇がよりシャープな250の方がパワフルに覚える。
しかし、中間加速は当たり前だが300からは迫力を感じる。
が、そんな比較など意味がない。
何故ならパワーにもトルクにも不足などないのだ。250も300も。
はっきり言えるのは滑らかな回転上昇は特筆すべきですがFi化によって効率が高まった結果、実用域でのトルクが強くなったのを感じます。加えてスムースな回転上昇によってジェントルで上質、上品さをもまとっている。
初めての2TFiをここまで調教!って、感心。まったく、レーシング2Tそのものです。
tm300TSI ENこのマシンとなら何所にでも行ける。
滑らかで大きく、望めば湧き上がるトルク。その絶大な安心感は300だけの物。その豊かで大いなる包容力はすべてのtmの美点である鈍感な挙動と共にover250の世界にいざなってくれる。
と、いうか価値は300ならでは。それほどトルクの大きさは信じがたい!
標準ファイナルは13:48ですが、Rは46もしくは45でも良い感じ。
ほとんど3速に落とす迄もなく4と5速で事足りる。上り、ヘアピンと言ったタイトターンでも3速を加えるだけでちょいと飛ばす程度なら十分だ。勿論、レースなら話は多少違うでしょうが。しかし状況は変わってもトルクの強さ、トラクションの大きさからくる安定感が際立つ。
それと登り途中、バランスを崩し、スロットルを戻す等良く遭遇しますが、まったく問題なく開け直せば何事もなかったように淡々と登る。
余談
tmの場合、125だとしても素晴らしい完成度を見せる。そう、今年のエンデューロ世界戦のユース・チャンプ・マシンはtm125。そう、またシーズン途中ながら年間チャンプを決めるほど圧倒的強さを持つ。
また144にしても250にしても、また4Tにしてもtmであればそれぞれがそれぞれの価値と魅力を確立している。そう、それぞれが素晴らしい。
乗り比べるとどれも良すぎて選ぶ悩みが尽きない状態になるのは経験された方はよくご存じ。また、複数台所有される方が多い事でも証明される。
今回の300もそう。
同じtmなら125と300を乗り比べても決めきれない魅力をそれぞれ持っている。
正直今の自分には300は実に魅力的なマシンに映る。そういう意味で300が正解でした。セルも付いてる、ずぼらできる、楽だし・・(本音!)

250はやはり、飛ばして愉しい。感じる速さ、痛快さは300以上と言ってもよい。
ただ、愉しさは比べる事はできないし、どちらも遜色ない。
が、250はアバンチュールを愉しむには最高だが、時にそのパワーと言うわがままを持て余す。
じっくり、ゆったり付き合うなら300。
それは熟女いや大人の女性の魅力に似ている。何をしても、どんな乗り方をしても、ミスリードをしてもやさしく包んでくれる。
ただ300は登録使用できない。
でも、それを補って余りある魅力を見いだせる。大体、300でターマックなど誰も走りたいとは思わないでしょう。
しかし反面、ダートなら例え流すような走りでも快楽に似た心地よさをみせる300。
レーサーと割り切ってクローズド使用のみなら300は検討の価値はある。長い付き合いができます。
250は良い意味で危険な香りは強い。まして、登録使用可能と言う大きな魅力もある。
だから、イクところまでイッテみたいならtm250。自分の中の寝た子が起きそう!
あなたにいくらでもついていきます。
そしてサス
今回の300、実は2020モデルの先行モデル。つまり、エンジン等は最新鋭で新しいのは知っていますがサスに関してのインフォメーションはなかったので19と同じはずですが、サスの雰囲気と言うか、フィーリングは明らかに違います。
実に気持ちよく作動します。
標準よりフォークの圧を2クリック弱めただけで後は全く標準状態ですが全く不安も不足も、固くもない。それどころか試乗後には標準に戻したくなった。Rのtmショックも同じです。
ピシッとしたダンピング、そのダンピングを感じさせながらスムースな作動感は気持ちよい。と、いうかとても良い感じ。
もしかして300のトルクがそうさせるのか?実に良い感じ。と、言う言葉が一番かな?
補足
そして今回300の速さからか?
tmのブレーキ・システムに改めて舌を巻いた!
tmは安定感から速さを感じさせない。300の圧倒的なトラクションを保証するフラットなトルク、パワーが生み出す脅威の加速です。
だからなおさら強力なブレーキのありがたみを感じる。
しかし、それもそうだがブレーキング自体に走る喜びを見いだせる。いや、ブレーキングがコーナリングと同じくらい喜びに満ちた作業だということを知りました。ストッピング・パワー、コントロール自体がおおいなる喜び。
速度を感じさせない安定感はtmの大きな美点。
的確、確実、明快で何より絶大な安心感の元は路面情報力が豊富でだから。勿論、サス、フレーム、ジオメトリーによるものでしょう。
腕に覚えがある方なら250と300いずれも、どちらもこれ以上のマシンはあるまい。
最後にキャブレター?もしくはFIか?と、言う議論になる。
コンペ主体なら迷わずキャブレター仕様。加えてパンチはキャブに軍配が上がります。ただ、混合とキャブ・セッテングは必須。
FIはサーモ・スタット装備。まして混合も必要ない使い勝手の良い万能選手。戦闘力、愉しさに差はないでしょうが、山遊びならTSIが楽でしょう。
って、言いますかこれほどのパフォーマンスを見せるマシンが分離給油でのれる時代の流れ、進化を素直に喜びたい。
デジタルがアナログを進化させた?
例えばオーディオでは自然な音、生音と言う部分ではデジタル音源であるCDはレコードを超える事はできない。しかし、ここにきて初めてI pad等一部デジタル機器がレコードと並ぶ自然な生音を可能となった。
デジタルが初めてアナログと並ぶことができた。と、言えるでしょう。
アナログである人の五感、感性の訴える「何か」。
「何か」と言うのは感動と言える。
その「何か」はデジタルでは近づいたとしても、アナログと同じ「何か」には至らない。少なくとも今までは。
tmも生き残るための変化としてTMEES、燃料噴射等デジタル化が進んできました。
しかし、他のインジェクションマシンの噂を聞くとそのフィーリング、パワー、信頼性は違和感があるという。

いくら信じているtmにも?
全く、今までのtm2ストロークそのままであり、すべてのマナーの高さ、安定感、そして自然なエンジン・フィールはキャブレター式と区別がつかない自然さとパワーを見せました。
それは今までの遅れを補って余りある自然さ、完成度を見せてくれた。と、言ってよいと思う。変わらない為の変貌を具体化しています。
確かに、その実装は遅れた。
25年のtmとの歴史の中、これ程デリバリーが遅れたのは初めての出来事でした。多くの心待ちにしておられたお客様に不安と不信を与える事にもなりました。
この場を借りて重ねてお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした。
でも、素晴らしい価値をtm2ストローク燃料噴射マシンは貴方に提供できます。高い信頼性と性能と共に!
この自然なフィールと高い信頼性。この熟成の為に数ケ月余分に必要だったのでしょう。
